京セラ創業者の稲盛和夫さんの著書『働き方』(三笠書房)のプロローグからの引用です。

--以下引用
 私は、働くことは「万病に効く薬」---あらゆる試練を克服し、人生を好転させていくことが出来る、妙薬(すばらしい薬)だと思っています。
 私たちの人生は、さまざまな苦難から成り立っています。
 自分が望んだり、招いたりしたわけでもないのに、思いもかけない不幸が次々に襲ってきます。そのような苦難や不幸に翻弄されるとき、私たちは自らの運命を恨み、つい打ちひしがれそうになってしまうものです。
 しかし、「働く」こと自体に、そのような過酷な運命を克服し、人生を明るく希望あふれるものにしていく、素晴らしい力が秘められているのです。それは、私自身の人生を振り返ってみても明らかです。
 私は若いときに、多くの挫折を経験しました。
 まず、中学の受験に失敗しました。そして、結核にかかり死線をさ迷うことになりました。病気を押して受けた再度の中学受験にも失敗しました。そのうえ、戦災で家まで焼かれてしまいました。
 十歳代前半の幼心にも、自分のツキのなさに暗然とする思いでしたが、試練はその後も続きました。
 大学への進学や就職活動も思うに任せなかったのです。
 志望大学の医学部の受験に失敗した後に、地元の大学の工学部に入学することになりました。気を取り直し、猛勉強に励み、学校から太鼓判をいただいていたものの、大手企業への就職活動がことごとくうまくいきません。
 やむなく先生の紹介で、京都にあった小さなガイシ(電線を支持し、絶縁するために、鉄塔や電柱などに取り付ける陶製の器具)製造会社に就職しました。しかし、その会社は今にもつぶれそうな赤字会社で、初任給が給料日に支払われず、「もう少し待ってくれ」と会社から言われる始末でした。
 二十三歳の私は、人生の門出にあたり、「なぜ自分はこんなに次々と、苦難や不幸が降りかかってくるのだろう。この先、自分の人生はどうなっていくのだろう---」と、暗澹たる思いにとらわれ、自らの運命を嘆いたものでした。
 しかし、私は、そのような過酷な運命に彩られていたはずの人生を、たった一つのことで、大きく塗り替えることが出来たのです。
 それは、私自身の考えを改め、ただ一生懸命に働くことでした。
 すると不思議なことに、苦難や挫折の方向にしか回転していかなかった私の人生の歯車が、良い方向へと逆回転をし始めたのです。
 そして、その後の私の人生は、自分自身でも信じられないほど、素晴らしく希望あふれるものへと変貌を遂げていきました。
 読者の皆さんの中にも今、働く意義を理解しないまま仕事に就いて、悩み、傷つき、嘆いている方があるかもしれません。そのような方には、「働く」ということは、試練を克服し、運命を好転させてくれる、まさに「万病に効く薬」なのだということをぜひ理解していただきたいと思います。
 そして、今の自分の仕事に、もっと前向きに、できれば無我夢中になるまで打ち込んでみてください。そうすれば必ず、苦難や挫折を克服することが出来るばかりか、想像もしなかったような、新しい未来が開けてくるはずです。
 本書を通じて、ひとりでも多くの方々が、「働く」ことの意義を理解され、幸福で素晴らしい人生を送っていただくことを心から祈ります。
--引用ここまで

働き方―「なぜ働くのか」「いかに働くのか」
稲盛和夫 著(三笠書房)